Vol.6
ランニングの本質とは?
着地のクオリティ
RUNNERS COLUMN

悪いフォームでも歩けるし、走れる。が…

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馬には馬の、犬、猫、うさぎたちにもそれぞれの移動する為の歩く走るフォームがありますが、同種族のフォームはみな同じ。個体差(個性)がそれほどないように思えます。一方で人間はどうでしょう。少なくとも私がコーチをしているニッポンランナーズメンバーのフォームは千差万別。フォームのシルエットを見れば誰だかわかるくらいの個体差があります。これほど統一されていない種族はほかにないのではないでしょうか?

その大きな理由は、これまでお話してきたように、暮らしの中にあります。立つ・座る・何かを担ぐなどの生活習慣が大きく影響しています。

そして【悪い(効率良くない)フォーム】の多くは脚(四足動物で言う後ろ足)の力に大きく依存して進もうします。上体を効率的に使えず、多くの場合、地面を後ろ方向に蹴って進もうとするとか、腿や膝を上げて走ろうとします。

これでも歩けるし、走れてしまいます。ですから基本を疎かにしてしまいがち。怪我をしてから、初めてフォーム改善に取り組まれる方が多いのです。 また、弱点強化という名目の下、筋力トレーニングによって、振り子となる『腕』や『脚』に筋肉が付きすぎてしまうことも。四肢に重たいオモリをつけたアンバランスな体格になる方もいます。ここでは詳細は省きますが、目的をしっかりと整理して取り組む必要があります。

「各部位を鍛える → 活性化させる」
→「ランニング」

このようにコンスタントにランニングの動作を挟んで取り組むことで、脳にある走りのプログラムが改善されます。今までは眠っていた筋肉。そんな大切な筋肉をしかるべき瞬間に動員して走れるように変わって行くのです。 ですが、そんな配慮をせずに筋トレに没頭してしまうと…走っている活躍する筋肉ではなく、筋力トレーニング時にだけ活動するに留まる筋肉になってしまいます。筋トレの時にだけ輝く筋肉。これではオモリにすぎません。体幹強化とか、筋力アップとか、スピードアップといったことは否定しません。ですがそれらは本質を抑えた上での次のステップだと思います。 まずはランニングという本質を見定めてからスタートしましょう。

映画「マネーボール」(大リーグのGMがチームを作り上げる話)で印象的なセリフがあります。
「野球で何を把握すべきか、誤解している人が多すぎる。(中略)金で選手を買おうと思っている(中略)」、「だが、本当は選手でなく『勝利』を買うべきだ」

この言いまわしを使わせていただくと 「重力お構いなしに足で地面を蹴ることで進もうと誤解している人が多すぎる。本当は蹴るのではなく、重力を味方につけて、地面からの反力を受け止めて推進力にすべきだ」となります。

「重力と付き合いながら、体重を目的地へ運搬する運動」
走ることの本質を私はこう考えています。

蹴ること、腿を上げることは、上手に付き合うというよりも重力お構いなしの動き…強引ですね。

動画で見る! 重力と付き合いながら、
体重を目的地へ運搬する運動

ドリブル(良い例・悪い例)

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ドリブルでは地面から跳ね上がったボールを受け止めて、ボールが落ちかかった時に下へ叩きつけるので、勢いよく地面に落ち、その反力を利用してボールが再び持ち上がってきます。
一方で幼い子のドリブルは、そんなのおかまいなし。ボールが跳ね上がってきたところをすぐさま力で叩きつけるので続きません。
「体が宙に浮いては落ちる」を繰り返すランニング。その着地衝撃は概ね体重の3倍と言われています。その下方向へのエネルギーから反力を得ることができます。これを取りこぼすことなく、体で受け止めて前に進むのです。空気の詰まったボールをドリブルさせるイメージです。
ですが、ドリブルのようにその場で弾むだけでは進みません。体のバランスが目的とする方向に崩れている。ランニングの場合には単純に「前方」。前へ崩れ落ちては跳ね上がる連続がランニングだと考えてみてください。(球技など対人競技では、前後左右への俊敏さが問われますが、この際にも行きたい方向に瞬時にバランスを崩すことがポイントとなりますが、反対にそんな重心移動がフェイントの罠にはまることもあります)

両足ホッピング→前傾で進む

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上に跳ぶのではなく、下に落ちることを意識して両足ホッピング。
落ちた瞬間に体を引き締めます。跳ねつづけながら、骨盤の前傾を強めて重心を前へ崩すと自然と体は前に進みます。10M程度ホッピングの後、自然とランニングに移行する。これを3回。

ランニングは左右の足が交互に地面を捉えて体を移動させますが、上記の仕組みを利用すると、単なる筋力の足し算みたいな走り方から卒業できます。しなやかに体を移動させることができるのです。

良いフォームのルーティーン
《重心が前に崩れ片足が前に出る→接地→体重を乗せ反力を得る→重心が前に崩れる→反対足が前に出る→足が地面から離れる→空宙に浮く→重心が前に崩れ片足が前に出る→接地》
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悪いフォーム〔腰が引ける、猫背姿勢、顎が上がるなど〕

《接地→足が地面から離れる》間の重心移動に時間を要します

腰が落ちている(膝が内側に入る、腰が外方向に流れる、体幹が開いてしまうなど)局面ばかりが写真で撮られている方は、接地時間(地面に足が触れている時間)が長いことが理由です。

着地が一瞬である空気の詰まったボールの正反対。空気の抜けたボールです。一歩一歩が沈んでしまい。弾みません。結果的に反力を使えません。わざわざ脚の筋肉の伸縮によって体重を前方に運ぼうとするフォームになるのです。

悪いフォーム
腰が落ちている、猫背姿勢、顎が上がる(膝が内側に入る、腰が外方向に流れる、体幹が開いてしまうなど)
理由:接地時間が長い(地面に足が触れている時間)

手で握った棒 (良い例・悪い例)

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接地時に地面から受ける反力。これを受け止めるのは骨盤です。「手」で棒を強く握って地面に突き刺すと弾んで前に進みます。この時に握っている「手」が骨盤です。反対に握っている「手」が緩いとどうでしょう。棒は弾みません。「手」は滑り落ちます。反力が使えず、腰は落ちる。それを表しています。
骨盤でしっかり支える感覚をつかみやすくするのには McDavidの 8200 クロスコンプレッションショーツの着用が有効だと思います。ランニング中、(締め付けられすぎることが無く)適度な圧力でサポートしてくれるので骨盤まわりの動きを意識できます。

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接地から離地の間は足裏で体重が移動します。離地の際は親指がしなりデコピンのような張力が生じます。(足が地面から離れる際に)体重が抜けて行くポイントには諸説ありますが、私の感覚では親指・人差し指の間。下駄の鼻緒がかかるポイントだと意識しています。体重が無理なく抜けていく意識づけとして「カーフレイズ」があります。

カーフレイズ:通常

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カーフレイズ:素足

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放っておいても足の重さを利用して足は落ちます。上手なドリブルも、ボールが落ちかけるある瞬間に叩くから強く地面に打ち付けられます。ドリブルもランニングの足運びもその繰り返しです。重力に逆らうことなく上手に利用する。そのエネルギーを利用して走ってください。重力に逆らい脚の筋肉により脚を持ち上げて進む。骨盤が動かなかった旧式のロボットはこういった歩き方をしていました。(現代では骨盤が動くようになり、人間に近いメカニズムで歩き走ります)。膝上げフォームは脚の末端の筋肉に頼って進もうとするので疲れやすくなります。

5歩に1回ストップ(7歩でも9歩でも奇数歩で左右交互に踏ん張る)

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ジョギング中、5歩に1回ストップ。ぴたっと片足で体を止めます。ぐらつかないこと。体は前傾して、骨盤周りでしっかりと衝撃を受け止めること。これを100M続けます。

これまでは本質を明確にせずなんとなく走っていた方が多いことと思われます。自分の脳にあるランニングのOSを効率化する。ランニングは脚筋力比べではありません。漏電している無駄な力を省きましょう。重力とうまく付き合いながら体を運搬するスポーツだと認識して心地よく地面を捉えて進んでください。