カラダとケガについて
腰の解剖学
Anatomy of the back/waistMcDavid
SPORTMED LABO

腰関節とは

腰痛・腰回りの傷害の色々な原因を理解するためには、腰の領域の通常の状態を理解することが大切です。この部位に関連する組織としては、腰椎、椎間板、靭帯、脊髄と神経、そして筋肉に大きく分けられます。

腰椎は脊髄を怪我から守る目的と同時に、椎骨がうまく積み重なることで動き(可動)をサポートできるようになっています。腰椎は最も大きく、大部分の体重を支えています。この部位は頸椎よりは劣るものの、胸椎以上の可動を可能にしています。また、腰椎の椎間関節は大きな屈曲・伸展を可能にしていますが、回旋に対してはしっかりと制限しています。

腰部は上半身と下半身のほぼ中間にあり、どちらからの負荷もかかる部分です。そのため、ケガが起こりやすい部位であり、慢性的な負荷の蓄積から起こるものが多くなっています。

腰部を含む体幹部の運動は上下の椎体間にある関節で起こる比較的小さめの動きの組み合わせとなります。そのため、1つ1つの関節の可動域ではなく胸部(胸椎)と腰部(腰椎)の総合的な可動域を指標とすることが多くなっています。

専門的には胸部(胸椎)、腰部(腰椎)を個別で評価しますが、「屈曲/伸展」では上位胸椎部での可動域は小さく、下位腰椎部で大きくなります。「側屈」においては胸椎部と腰椎部で大きな違いはありません。また「回旋」においては一般的に間違った理解がされることが多い運動です。
野球やゴルフの指導において「腰を回す」とよく言われていますが、実際には腰部(腰椎)で回旋は10°前後しか起こらず、その多くが胸部(胸椎部)で起こります。そこで無理に腰を回そうとするとケガに繋がることがあります。

正常関節可動域 (日本整形外科学会より引用)

【胸腰部】 ※胸椎・腰椎で起こる可動域
屈曲・・・45°
伸展・・・30°
側屈・・・40°
回旋・・・40°

腰部を含む背骨(脊柱)を構成する骨を椎骨と呼び、頸部にある椎骨を頸椎、胸部にある椎骨を腰椎、腰部にある椎骨を腰椎と呼びます。
頸椎は7個、胸椎は12個、腰椎は5個の椎骨があります。胸椎と腰椎の椎骨はどれも同じような構成となっており、下にあるものがほど徐々に大きくなっています。

椎体(ついたい)
椎骨の前面部で厚く、円盤型をしています。体重がかかる部位。

椎弓(ついきゅう)
椎体から後方に伸びる、短く太い椎弓根と椎弓板で形成されます。

椎孔(ついこう)
椎体と椎弓で形成され、間を脊髄がはしります。

棘突起(きょくとっき)
椎弓部後方の突起

横突起(おうとっき)
椎弓部側方の突起

軟部組織

腰部の椎体は骨格自体の形態に加え靭帯や軟部組織によって支えられます。
屈曲を制動する靭帯には後縦靭帯、黄色靭帯、横突間靭帯、棘上靭帯、棘間靭帯などがあり、伸展を制動する靭帯には前縦靭帯があり、背骨の安定に関与します。
また椎体と椎体の間には椎間板があり、ゴムのような線維性軟骨からなる環状部分(繊維輪)が、ゼリーのような柔らかさをもつ中心(髄核)を包み込む形でできています。椎体間の衝撃を吸収するクッションのような役割を持っています。

筋肉

腰部の筋肉には主にいわゆる腹筋と呼ばれる筋肉と背筋と呼ばれる筋肉があります。
体幹部の運動に関与する筋肉が多いですが、深部の筋肉は椎骨の安定性などにも関与します。また体幹部だけでなく上肢や下肢にも影響する筋肉も多くあります。

前面~側面には腹部を真っすぐ上から下に走る腹直筋、腹部を斜めに走っている外腹斜筋と内腹斜筋、腹部全体を覆うように横に走っている腹横筋があります。他にも股関節へ付着している大腰筋もあります。

背面には棘筋、最長筋、腸肋筋の総称である脊柱起立筋や深部にある多裂筋などがあります。また腰部には胸腰筋膜があり、上半身から繋がっている広背筋や下半身から繋がっている大殿筋と連結します。

屈曲
腹直筋、大腰筋

伸展
脊柱起立筋、多裂筋、半棘筋

側屈
腸肋筋、最長筋、多裂筋、腹斜筋(内・外)

回旋
回旋筋、多裂筋、最長筋、腸肋筋

腰部と骨盤

腰部(腰椎)と骨盤は相互に影響する関係にあり、骨盤の前傾/後傾が腰椎の屈曲/伸展に、逆に腰椎の屈曲/伸展が骨盤の前傾/後傾に影響します。骨盤にはニュートラルポジション(中間位)と呼ばれるものがあります。「骨盤を立てた状態」または「脊柱が均等なS字カーブを描く角度」など様々な表現がされ、ニュートラルポジションの明確な角度はなく個人に骨格により異なります。また、一般的にこのニュートラルポジションが重要とされていますが、運動においては前傾と後傾のどちらの姿勢も取れる必要があります。しかしながら立位や座位での姿勢(静的な抗重力姿勢)において、ニュートラルポジションを取れることは非常に重要となり、ケガのリスクに関与します。

骨盤が前傾位になると腰椎は伸展位になり、反り腰になりやすく腰部に非常に負担がかかりやすくなります。
反対に骨盤が後傾位になると腰椎は屈曲位になり、全体的に背面が丸まって猫背になりやすくなり、腰部への負担だけでなく背中や肩回りに負担がかかりやすくなります。
つまり、骨盤の過度な前傾や後傾の姿勢は腰部にかかる負担が増えるためケガのリスクが高まります。

骨盤前傾および後傾の原因は様々ですが、日常的に悪い姿勢で座る、立つ、歩くなどを行うことで筋肉のアンバランスが起こり、筋肉の緊張を生み、緊張している筋肉の方へ骨盤が引っ張られることで起こります。前傾の場合は大腿前面の筋肉が、後傾の場合は大腿後面の筋肉が緊張し骨盤を引っ張ります。

この骨盤のポジションを改善することで腰部のケガの多くは予防することができます。