肉離れとは、筋肉の過度な伸長により発生する筋線維の損傷のことを言います。軽度の場合は筋線維の一部が損傷する「部分断裂」が多く見られますが、重度の場合には「完全断裂」も発生します。
肉離れは大腿部だけではなく、どの筋肉にも起こり得ますが、特にハムストリングスにおいてその発生率が高いと言われています(その他下腿三頭筋、大腿四頭筋などで発生することも多い)。
肉離れは柔軟性の低下や筋力低下が原因で起こることが多く、疲労やフォーム不良、そして筋力の不釣り合いなども影響します。
大腿部の肉離れは、主に伸びた筋肉をそれ以上伸びないように縮めようとした時(遠心性収縮)に起きます。
最も起こりやすいのは疾走中のハムストリングスの肉離れです。前に振り出した脚の接地時にブレーキ動作でハムストリングスをそれ以上伸びないように縮める力が加わった時(スプリント型)や、同じく接地時に上半身が前傾になることでハムストリングスが過度にストレッチされた時(ストレッチ型)などに起こりやすくなります。
そのため、ハムストリングスの筋力低下や柔軟性低下があるとその伸張力に耐えることができずに肉離れが起こりやすく、スプリントが多い陸上短距離、ハードル走、サッカー、ラグビーなどで起こりやすいです。
肉離れの症状は一般的に軽度(血管損傷)、中程度(部分断裂)、重症(完全断裂)に分類されます。重症度の正確な判断は医療機関にてMRI検査が必要となります。
ハムストリングスの肉離れでは、圧痛や腫脹(腫れ)など他のケガにも起こる症状が同様に起こります。そして肉離れを起こしている筋肉の伸び縮み(収縮)による痛みや制限が起こります。
また重症度が高くなるにつれて損傷部位が陥没し、内出血(皮下出血)も起こります。特に急性期では歩行にも支障をきたすことがあり、歩行できないほどの痛みの場合は重度の可能性が高くなります。
受傷初期には患部のしこり(硬結)が残存することがあります。このしこりは柔軟性を低下させるため、強度の高い運動を行うと再発を誘発する可能性があるため、注意が必要です。
Ⅰ型(軽傷)
腱・筋膜に損傷がなく、筋肉内に出血を認める(出血型)
Ⅱ型(中等症)
筋腱移行部の損傷を認めるが、完全断裂・付着部の裂離を認めない(筋腱移行部損傷型)
Ⅲ型(重症)
筋腱の短縮を伴う腱の完全断裂または付着部裂離(筋腱付着部損傷型)
ハムストリングスの肉離れの場合、重症度により処置方法が大きく変わるため、特に重症度が高いことが予想される場合は医療機関でのMRI検査で重症度を明確にすることが望ましいです。
重症度に関わらず、受傷直後はRICE処置によって痛みの軽減や炎症を抑えることが必要です。ハムストリングス肉離れのRICE処置ではハムストリングスにストレッチがかからない姿勢で行うことが推奨されます。
患部の痛みや歩行時痛が軽減してきたら患部に痛みが出ない範囲でスタティックストレッチを開始します。ストレッチ痛やしこり(硬結)が残存している場合は電気治療、超音波治療、針治療などにより改善を図ります。また同時にハムストリングスに影響を与える股関節や膝関節の可動域が低下しないよう、痛みのない範囲で運動を行います。
ストレッチ痛、しこり、圧痛などの症状がなくなり次第、軽いジョギング、ダイナミックストレッチ、自重トレーニングなどを開始し、運動時痛などの症状の有無によって強度を徐々に上げていきます。症状が出た場合は無理に続けず、一度負荷を下げて段階的に復帰することが重要です。
なお、運動後は患部へ負荷をかけているため、必ずRICE処置を行い、炎症を次の日まで残さないことが重要です。また再発防止の観点からもハムストリングスの柔軟性の向上や筋力向上(特に遠心性収縮に対する耐久性)は必要不可欠です。大腿部のサポーターやテーピングなどは患部への負荷の軽減にも有用となる場合も多く、リハビリテーション過程や復帰後に使用されることも多くあります。
ハムストリングス ダイナミックストレッチ1 ハムストリングスの柔軟性向上
1.タオルを足に引っ掛けて、上向きに寝ます。
2.片足はタオルを使って上げておき、片方の足を上げ下げします。
ONE POINT
上げている足の膝の角度でストレッチ感を調節する。(動画の前半は弱め、後半は強め。)
ハムストリングス ダイナミックストレッチ2 ハムストリングスの緊張緩和
1.片足を椅子や台に乗せ、軸足は乗せている足側に向けます。
2.体を捻り、息を吐きながら軸足側の手を斜め上と斜め下に伸ばします。
ONE POINT
バランスが崩れないように注意が必要。